「麦屋町昼下がり」
片桐敬助はある日・・舅に追いかけられる女を助けるべく相手の老人
を切り捨ててしまう。
なんと350万石の不伝流の俊才剣の達人と名高い弓削新次郎の父だった。
結婚話もとん挫して・・彼の報復が待っていた・・
はたして・・身じろぎもせずに彼を待つ娘がいた・・
斬り合いのさまは・・なかなかにきわどい・・
本来このようなところは飛ばして読んでしまいがちだが・・
そこが一番の読みどころ・・剣の使い方に工夫をこらしているのだ。
月の表情をたくみに・・
「満月に近い月は、まだ寒かったひと月前には人にも物にも
もっと荒涼とした光を投げかけいていた」
「月が形づくる物と影はぼんやりと入り乱れて、道のところ
どころにある家や大きな木立の影は行く手にはだかる物の怪の
ように見える」など・・今回の藤沢マジックは月??
「榎屋敷宵の春月」
これは痛快!主人公が田鶴・・
今まさに夫が重役衆に抜擢されるという大事な瀬戸際
しかも仲良しの三弥もまた・・夫の出世に余念がなく
そんなある日に事件が起こる。
彼女の門前で斬り合いが・・その仲介にはいった田鶴は木刀で応戦.
男たちを蹴散らしてしまった・・・
実は彼女は少しばかり剣の覚えありその助けた男は重役衆の不正の
書状を届けるところであったが・・
事はなかなかに・・おもはゆい・・
私欲ではなく・・義のために・・潔いというか・・・
結末??それは予想どおり??
時代は江戸末期の市井の人々を描く・・
欲に目がくらむ重役衆・・名もない剣士たちの運命が・・
また、女たちの葛藤が面白い・・
そして・・三弥と田鶴の女の心中など見事に描く・・
以外にもいやなやつと思った三樹之丞が実は・・
時代劇サスペンス??是非・・読んでみてくださいな〜
盆踊りがこの時期の風物詩のように・・
華麗でにぎやかな中で・・伝五郎は七重に会った・・
「あなたが井沢の勝弥と喧嘩したときのことを・・」
よく覚えていると・・
この時、伝五郎の中で何かがはじけたのかもしれない・・
母親に置き文をしたためて・・
彼は勝弥と決闘することになるのだが・・
なんのため??七重のために??
640石の上士菱川家に嫁いでいる聡明で美しい七重・・
肩思いのままの人に命をかけるのは男の意地だったのか??
やるせないというか・・
七重もまた・・大事な人を奪われた理由が何なのか??
皆目見当がつかない・・まさか自分が原因とは・・
ほか7編・・不幸な境遇にもかかわらず懸命に生きようとする
悲哀に満ちてもの悲しいけれど・・
藤沢文学の神髄は心の投影が美しい・・
さわり程度・・今回はこの中から何を選ぼうか・・と・・
偶然手に取ったこの本・・「風の果て」
なんと友人からは果たし状が届くところから話がはじまる・・
「陰扶持」という事をはた?と思いだすくだりは・・
のちにこの話の大きな鍵となる・・
昔、自分が上村隼太だった頃・・過去の出来事を時折
思い返しながら現実の自分と対話するという行きつ戻りつつ
物語は武家社会の政治がからみ・・
当然、5人の仲間の人間模様が描かれていく中で時に・・
悲惨で無情な・・運命に戸惑い翻弄される・・
斬り合いのすさまじさ・・描き方の見事さ・・
はらはらと目が離せない・・なので一気に読んでしまう。
藤沢さんに珍しく・・過去と行きつもどりつつのこの
難しい展開は読んでみてはじめて納得・・
見えないものが下巻に見えてくる・・
そう・・大きな鍵になるそれは桑山又左衛門の心を揺るがす。
丁寧に描かれる街並みや景色・・
本を書くということは・・人物ばかりか自然そのものもまるごと
手のひらに乗せて描くことなのだと・・当然、街並みや情景が浮かぶ。
お父さんの姿・・・それは普通でいること平凡な生活が
一番大切であると教えられていたことなど・・
それは本を読んでいても感じることである・・
有名な人でもなく江戸時代の名もない市井の人たちの生活
を通して人間の生き方を爽やかに描く・・
小説が1冊の本になったあとも・・
加筆をして何度も自分の小説を読みなおすことあったと・・
また、小説の中に出てくる剣の使い手に詳しいわけでもなく
剣道を習ったこともない・・
それらはすべてその剣の専門書から学び30冊にも及ぶとは・・
習わずして??と・・驚きは隠せない。
剣の流派や秘伝、剣豪など忍者の忍法など・・
それらは小説の中で自分流に剣技を工夫していたようだ。
私の中で以前からのなぜ?が分かって
藤沢周平さんの本がまた・・読みたくなる。
一度木刀を振りあげていた姿を目撃したというから・・
納得できるまで丁寧に本を書いたのだ・・
この本は家でじっくり読む時間がなかったので
もっぱら地下鉄やバスの中で・・
なんとこれは・・ミステリー仕立ての私立探偵の謎解き
のような小説といおうか・・・・
彫師の伊之助に依頼された仕事は20年も前の事件だった。
不可思議な事はよくあるけれど・・
その事件の容疑者が20年たって次々と殺されることに
どのような背景があるのか・・丁寧に聞き込みをしながら
核心に迫った時に・・伊之助たちの脳裏に浮かぶ
ある小さな事件が鍵を握る。
容疑者であるその人物がなぜ??その心の動揺に・・
死の覚悟を垣間見た・・
長い話で・・497Pの大作。
古風な藤沢文学の神髄か・・
伊之助は江戸の町をたゆみなく歩き多くの橋を渡る
街並みが丁寧に描かれてその庶民の生活の移ろいを言葉で
表すことの素晴らしさ・・大都会江戸で・・
白髪の男・・大柄な男・・その男たちが何者であるのか・・
元岡っ引きの伊之助・・腕もたつ敏腕探偵さんなのだ。
ところで藤沢さんはどうしてこのような話を書けたのか
そこのところが知りたい・・
蝉しぐれ・・残念ながら最後のところだけ・・
TVを観ない人だからいつも見逃すの・・
それで本棚にあった本を読みだした・・
夫がせっせと買っては読んでいたのに私は忙しくて
藤岡周平さんの本はあれから・・手つかずだった
またしても・・内容といい・・読んでいて情景が浮かび・・
読み手をどんどん引き込んでゆく・・
お家騒動・・実は派閥争い・・それも熾烈・・
陰謀や・・その狭間で命を落とすもの達や・・
運命のいたずらに・・命を狙われるもの・・
彼に委ねられた密命・・
藩の一大事に・・今まさに彼が試されようとしている。
そして秘剣村雨が彼に託された・・
かなわぬ恋も・・また運命と・・
ほんのり・・漂う浮草のように・・
儚い・・夢と知りつつ・・
過酷な日々をそれもまた己の運命として受け入れるしかない・・
生きるか死ぬか・・・文四郎の選ぶ道はひとつ・・
どの時代も・・・ひとの欲が悪の根源・・・
正義が勝つ世の中であってほしい・・そんな思いが込められて
いるようで・・藤沢文学は流麗で奥が深い・・
彼はまたしても投獄されている囚人からの
頼みごとに持ち前の正義感が災いして・・
探偵ごっこ?相変わらず危険がいっぱい〜
気が付いたら命を張って勇敢に戦い行く様は 超人的だけれど・・
自分の腕に自信がありすぎではありませんか・・と・・
思えばヒーローはそんなもの??
母親なら「やめとくれ・・無鉄砲は・・」と言いたくなるところ
3男坊だから・・このシリーズでは母親は出番なし・・
無数の人間が闇の中で葬られ生きながら死なされている。
どこか不安や不吉な予感を秘めながら
中には冤罪をかぶり 死んでいくものがあったり・・
囚人の宿命といえばそれまで・・
でも、彼らの唯一味方で あり続ける立花登・・
もしかしたら藤沢さん自身が立花登を 演じていたのかもしれない。
主人公は超人的で・・
みんなのヒーローであるから 読んでいても痛快で・・
読み手をほっとさせる。
そして・・女ごころを心にくいほど哀しく優しく描き・・
「女牢」 は素晴らしかった・・
いつまでも心に残る傑作かと・・・
この続きをまだ読んでみたかった・・
立花登の壮年の話を・・
柔術の達人の妙技の描写もまた、迫力満点。
「老賊」「幻の女」「押しこみ」「化粧をする女」「処刑の日」
短編であるけれど・・どの話も面白い。
読んだあとの余韻を残して 好ましい配役といい・・
ドラマを観ているように・・ 流れていく・・
最後の処刑の日は・・
最後の最後に 立花登の尽力が発揮されてほっとされる。
話の展開に無駄がなく
まるで・・あの時代に生きているかのように
市井の人々がいきいきとしている。
牢医・・ならずものばかりを相手にしながら
命を預かる医者として彼らに暖かい心を向ける彼
最後の巻も・・時間を置かずに読みたいと思う。
映画になればいいなあ〜と密かに願う。
羽後亀田藩の微録の下士の次男として生まれ
藩の医学所で学んだ後3年後に江戸に来た。
江戸で開業した母の弟の小牧玄庵を頼ってきたが
叔父ははやらない町医者だった・・
時に鴨居道場で起倒流の稽古をしつつ・・
免許を得て道場の高弟となっていた。
折しも牢勤務では囚人が役人には言えないことなど を
頼みこみ意外な事件に巻き込まれて隠された事実 に直面したりと
起倒流の技が役にたつ。
囚人に対する作者の視線が人間社会の矛盾に立ち向かう。
そしてそこに彼らの救い手となって立花登が活躍をする。
牢破りのたくらみに一味誘拐された従妹のおちえの救出も
また、波乱万丈、人情味豊かな人間模様も見逃せない。
読みながら小伝馬町の牢や彼を取り巻く人々を想像しつつ
悲しくもまた哀れな人々にひとすじのひかりを与える彼
立花登が私の中で頼もしい存在・・
さて・・2巻目も楽しみ・・
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